+ 第4話 ドーブルとスケッチの旅 +


 いつもの朝。いつもの太陽。
 隣で眠っているノアにとってはそうなのだが、リリーにとってはそうではない。
 昨日までは、自分の住んでいるほうの世界で、人として生きていた。今は、ピカチュウになって救助基地にいる。
「おはよう」
「おはよう」
 リリーとノアは、当たり前のことのように挨拶を交わした。

「今日も元気に救助しよーう!」
 外に出て、ノアは叫んだ。リリーは微笑んで、救助基地を見上げた。
 その、見るも無惨な姿に、リリーは開いた口が塞がらなかった。
「何、これ……昨日はあんまり気にならなかったけど、もう、ここ、おんぼろじゃん……」
「そうなんだよ。ここもずっと使ってるから……」
 昨日、ここで寝たのか、と思うとぞっとする。基地はそれぐらいひどい状態だった。
「あのー、どうしたのですか?」
 青ざめているリリーとノアの背後から、何者かが声をかける。声の主は、やせぎすで顔色の悪いドーブルだった。
「ぼくドーブルと申します。今は仕事を探してます。何か手伝えることはありませんか?」
「え?」
「ぼく何でもします。特に何かをつくりあげることが得意です」
 リリーとノアは顔を見合った。
「ねえ、ここはさあ…救助基地をきれいにしてもらっちゃったりしない?」
「い、いいね。ボクもそれ、考えてたんだ。それじゃあドーブルさん、ボクたちのこの基地を、きれいにしてもらえないかな?」
「お安い御用ですよ!」
 ドーブルの表情は途端に良くなり、もはややる気満々といった様子だ。
「えーと、それじゃあ、おだちんは……」
「そ、そのことなんですが」
 ドーブルはまた顔色が悪くなった。
「“とおぼえのもり”へ一緒に行って欲しいんです」
 リリーは“とおぼえのもり”を知らない。ノアの方をつっついて、目を合わせたが、ノアは首を横にふった。どうやらノアも行ったことがないらしい。
「どうして?」
「ぼく、スケッチするのが趣味でして、この大陸の様々な場所をスケッチして回っているんです。でも、ぼくひとりで行ける場所なんて、せいぜい“ちいさなもり”くらいなので、 毎回救助隊の皆さんの力を借りているんです。それで」
「お安い御用だよ。それでここがきれいになるのなら! ね、ノア」
「うん!」

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