+ 第4話 ドーブルとスケッチの旅 +


“遠吠えの森”は、以前訪れた“騒ぎの森”と雰囲気が全く違っていた。
色の濃い木が立ち並び、地面はねばねばしている。
「まあ、怪しいのは同じか……」
「どのダンジョンも基本怪しいけどね」
 ようやく影から出られて、太陽の光を浴びられるというところで、ドーブルは立ち止まった。
「ここに咲いている花がきれいですね。ちょっとスケッチしてもいいですか?」
「もちろん! そのために来たんだし」
 ドーブルはそこにしゃがみ、持ってきた画材を手に取った。
 リリーとノアは、ドーブルの右隣と左隣に座った。
「ドーブルさんって、普段は何して生活してるの?」
「いつもこうやって絵を描いて、いろんなところを回って売っています」
「なるほどー。私も絵がほしいなー。あ、でも、救助基地がきれいになったらそれってドーブルさんの作品だよね、嬉しいなあ」
 リリーはスケッチブックを覗き込んだ。迷いのない筆づかいで、力強い花が描かれていく。
「すごいなー。ドーブルさん」
「そそ、そんなことないですよ。それなら救助隊のあなたがただってすごいじゃないですか。プラチナランクでしょう?」
「うーん、それじゃ、みーんなすごい、っていうことで!」

 その後も、ドーブルはたまに立ち止まって絵を描いた。だが、だんだん立ち止まる数は減っていって、焦りさえ感じられた。
「ドーブルさん? どうしましたか?」
「……弟子が……」
「?」
「弟子がこの先に……つかまっているんです」
「!!」
 ドーブルは青ざめた。
「それを先に言ってくれれば……! もっと早くも行けたのに!」
 ノアはドーブルの肩をゆすった。ドーブルは下を向いている。
「あ、そうだ、ドーブルさん!」
 リリーはドーブルのスケッチブックを取った。パラ見するだけで、それに描かれた絵の共通点が見えてきた。
「足跡……?」
「ああ。かたっぱしから描きうつした。ちょっとでも手がかりになればと……」
「あ、あれは、リリーさんにノアさん!」
 背後から声が聞こえた。どこか懐かしい声だ。リリー、ノア、それにドーブルも、後ろをふりかえった。
「あ、君、昔広場にいたディグダだよね?」
「そう、そうなんだぁ! ほんとに久しぶりだねー。そっちのひとは?」
「ぼくドーブルと申します」
 ディグダは、ドーブルにぺこりとお辞儀して、リリーの持っているスケッチブックに目を向けた。
 リリーは、そこでひらめいた。ディグダなら、誰の足跡なのかわかるかもしれない。
「ディグダ! これに描かれた足跡……誰のかわかる?」
「うーん、どうだろう。絵だからなあ……あ、でも、これならわかる! すっごく上手く描かれてるから」
 ドーブルは照れて、頭を描いた。
「こっちは、君よりも小さいドーブルの足跡だね。他は……これは全部ツボツボの足跡だよ!」
「ツボツボ……あの、うにょうにょしてるやつ?」
「そうそう」
 足跡は全て、北に向かっている。一行はディグダにお礼をして、北に向かっていった。

「やい、ツボツボッ! ドーブルさんのお弟子さんをかえせっ!」
「かえせーっ!」
 ツボツボは道をあけた。その先に、ドーブルの弟子がいた。
「まま、ままー」
 ツボツボはドーブルの弟子に向かって言った。
「ママ!?」
「そうなんですよー」
 弟子が言った。
「ツボツボに連れられたあの日、あたしお師匠様にごはんをつくったから……。身寄りのないツボツボたちは、あたしを頼って……」
「そ、そういうことだったのか」
 リリーとノアは拍子抜けした。
「じゃあ、あたしは帰るわね」
 弟子はツボツボを見渡して言った。
「ままー」
「大丈夫。あなたたちは、もう木の実ジュースの作り方もわかるんだから!」
「……ばいばい! ばいばい、まま!」
「ばいばい」

 一行は広場へ戻った。
「なるほどねえ。ママかあ……でもよかった、無事で」
「あたしもお師匠様に会えなくてすっごくさみしかったです。救助隊のお二方もありがとうございます」
「いえいえ」
 ドーブルは弟子に、救助隊へのお礼はこの基地をきれいにすることだと話した。
「へえ! 楽しそう! あたしも手伝います」

 数日後、救助基地の改装は終わった。ドーブルたちは、基地をたてかえたのだ。
 基地は見違えるものとなった。リリーとノアが片手をあげて、ひとつのバッジをかざしている、というデザインだった。
「す、すごい……ここまでできるなんて」
「ぼくと弟子の合作です」
「本当にありがとうございました!!」

 ドーブルと弟子は、また旅に出た。リリーとノアは、新しい基地でぐっすりと眠った。

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