+ 第5話 世界の秩序 +


 朝、リリーとノアは、新築のいい匂いがする新しい救助基地で目覚めた。
 リリーは、広場でまだ会っていないポケモンのことを思い出した。
「ねぇノア、ナマズン長老って、まだあの池にいる?」
「もちろんいるよ。どうしたの?」
「ナマズン長老なら、<世界の審判>のこと、知ってるかも、って思って」
「確かに。それじゃ挨拶がてら行ってみようか」
 リリーたちは起き上がり、北の池に向かった。

 ナマズン長老は、いつもの調子で池にいた。
「長老、お久しぶりです」
「おお、リリーじゃないか。広場から噂が聞こえてきて、なんでワシに挨拶してくれんのかと、広場のやつらに“じぇらしー”を感じていたところじゃ」
「ご、ごめんなさい。でも、ナマズン長老にしかできない話を持ってきました」
 そこでリリーは一つ咳払いをし、<世界の審判>について知っているか訊ねた。
「ふむ。知っておるぞ。話したことはないがな」
「何か知っていることがあれば、教えてください!」

 ナマズンの話は、おおむねこういうものだった。
 <世界の審判>はこの世界で一番偉い存在ではない。せいぜい、創造神たちの次である。
 世界のコントロールは、本来形を持つ、神と呼ばれるポケモンたちがしなければならないのだが、創造神は眠り続け、他の神ポケモンたちは現在冷戦の最中にあり、その結果、共存世界とポケモン世界を繋ぐパイプの役割さえしておけば良い<世界の審判>が、世界のコントロールを行っているらしい。

「<審判>の使いのポケモンがここまで話してくれることはありませんでしたね」
 ナマズンの話が終わり、ノアが言った。
「ある意味、こうはっきりと言ってしまえば、創造神たちをけなすことにもなってしまうからじゃろう。使いのポケモンたちにとって、恐らくタブーなのじゃ」
「なるほど」
「まぁ、ワシが言ったところで、怖いものなんて何もない。ふぉっふぉっふぉ」

「お、おい、お前ら」  ナマズンと別れ、広場へ戻ろうという時に、アーボがタイミングを見計らったように話しかけてきた。
「えーと、イジワルズの、アーボ、か」
「そこまで呆れなくてもいいだろ! 頼みがあるんだ」
 うさんくさそうだな、と思いつつも、リリーたちは耳を傾けた。
「チャーレムを、一緒に救出してほしいんだ」
「チャーレムを? どうしたの?」
「そ、そのだな、最近リーダーが塞ぎこんでて、おれたちが話しかけても上の空でよう。リーダーに元気になってもらおうと、何でも願いが叶うといわれる“願いの洞窟”にひとりで乗り込んじまって。おれはチャーレムより弱いから、どうしても勇気が出なかったから、一緒に入れなかったんだけど。で、チャーレム、いつまでも帰ってこねぇから、どっかで倒れてるんじゃ、って」
 あのチャーレムが攻略できないダンジョン。かなり骨のある場所なのだろう。
「頼む! お願いだ、チャーレムにもリーダーにも、元気でいてほしいんだ」
 そのアーボの誠意ある頼みを聞いて、リリーとノアは共に頷いた。
「わかった、さっそく向かおう! 場所を教えて」

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