+ 第7話 それでもやり直せるのなら +


 ノアは同行を断ったものの、内心ではリリーのことが心配でたまらなかった。
 救助活動をする気にはなれず、広場へ向かおうとすると、ワタッコに呼び止められた。
「ノアさんノアさんっ! お久しぶりです」
 そのワタッコは、沈黙の谷にあるワタッコの里を目指してダーテングに同行を懇願していた、あのポケモンであった。
「久しぶりだね、どうしたの?」
「あ、あの、さっきの話、聞いてて……」
「……」
 ノアは黙った。情けないところを見られた、と思った。
「“ことばの葉”の話はしましたっけ」
「いや。それは?」
 ワタッコは、ことばの葉について話をはじめた。
 沈黙の谷のポケモンたちが言葉を失ったこと、それは“ことばの葉”が盗まれたこと、自分は言葉を奪われなかったこと。ノアは静かに耳を傾け、ところどころで頷きながら聞いた。
「で、その“ことばの葉”について……私は風で葉が飛んだ時にその葉を取り戻したのですが、盗んだ張本人の姿は見えませんでした。ですから、そのひとの意図はわからないままなんです。一緒に探してくれませんか?」
 ノアは、無茶な願いだと思った。あまりにも情報が少なすぎる。
「ちょっと、それはなぁ……」
「そこで、さっきの話に戻ります。さっきの話を聞いていると、盗んだのはゲンガーさんではないか、と思えてきました」
「えっ、どうして?」
「“ことばの葉”はひねくれた言葉しかいえない者を助けてくれる、という効果もあるのです。素直になれるってことですね。彼がタタリを受けた元人間というのなら、キュウコンにタタリを解いてもらうために、キュウコンを説得する力が必要となるでしょう。だからです」
「なるほど……」
「まぁ、結局このあたりでそういう盗みをするのはゲンガーさんぐらいしかいない、とも思っていますが」
 その言葉に、ノアは陽気に笑った。

 そういうことならまずはリリーとゲンガーを尾行しようという話になり、ノアとワタッコも“樹氷の森”に向かった。

 ○

 先行組が奥地に着くなり、ゲンガーはキュウコンを呼んだ。
「キュウコーン! いるんだろ! タタリを解いてくれよ!」
 キュウコンは渋々、ゲンガーたちの前に現れた。
「はぁ。いいお昼寝タイムだったのに、何かと思えばタタリのことですか。私はあなたにタタリをかけた覚えはありませんが?」
「は?」
「だってあなた、もともとポケモン世界にいた者ではないでしょう? タタリをかけたのは別のキュウコンですよ。だから私にはわかりません」
 キュウコンは去ろうとした。そこにリリーが割って入る。
「お願いします! 何か方法はないのでしょうか?」
 キュウコンは、そのピカチュウの声を聞き、向き直った。
「いや、そもそもあなたにタタリはありません。タタリがかかっているとしたら、あなたの身近なポケモン……」
 身近なポケモン、という言葉で、リリーはアーボの話を思い出した。
「サーナイト?」
「えっ」
 ゲンガーは怯んだ。これは間違いない。
 リリーの夢に出てきたサーナイトは、タタリを受けていたがために実体がなかったのだ。
「そのとおり。あなたが人間だった頃のパートナー、サーナイトは“闇の洞窟”に封印されている。あなたの代わりに、そのキュウコンのタタリを受けて」
「なんだって?」
「あなたがポケモンになったことは、タタリとは関係ありません。ただ、サーナイトとは関係があるのかもしれません。恐らく<世界の審判>がサーナイトを哀れんでのことでしょう」
「そんなことが……」
 リリーは複雑な気持ちになった。ゲンガーとサーナイトの過去に何があったのか、まだよくわかっていない。
「サーナイト、確か私に、ずっと会ってないひとがいるけど、いつか必ず会えると信じてるって言ってた」
 ゲンガーは目を見開いた。そしてリリーの方をじっと見る。
「ホントだよ」
 キュウコンは、そこで、さて、と言った。
「成功するかはわからない、けどやってみる価値はあるでしょう。ここに“九尾の印”と呼ばれる石があります。これを“闇の洞窟”の最深部にある窪みにおさめれば、<世界の審判>と話ができるでしょう。あの方なら、強いタタリでも解くことができるかもしれません」
「なるほど、この石っころを」
「九尾の印、です」
 キュウコンは念を押すように言った。
「ゲンガー、今すぐ行こう」
「お、おう」
 リリーはリリーで、<世界の審判>と話したいことがある。一行は先を急いだ。 

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