もうすぐ会える。もうすぐ会えるよ。
私はついに<世界の審判>の居場所を突き止めた。
あなたが今いる場所もわかった。
だから今、行くわ……。
+ 第1話 願いと嵐と +
「わぁお」
初めて見るミナモシティに、テルは歓声をあげた。
テルは今までジョウト地方を出たことがなかったから、ホウエン地方の力強い木々や海を見て驚いたのだ。
「いい考えだったわね。お父さんがなかなかお仕事を休めないから、こっちから会いにいっちゃおうだなんて」
そう言ったのは、テルの母親リリーだ。
「うん。ずっと父さんに会いたいと思ってたし、すっげぇ嬉しい!」
「それじゃあ待ち合わせの時間までもう少し時間があるから、この町をまわりましょうか」
「見ろよ、でけぇ海! 透き通っててきれいだなぁ」
テルは海を指差して言った。
「そうね」
リリーはそう返事をした。だが、それから何も話さず、少しも動かず、しまいには足を小刻みに震わせた。
「母さん?」
「テルっ……!!」
母の指差した先から、大津波が襲ってくる。
「んなっ!?」
浜辺のポケモンたちや、トレーナーが、どんどん津波にのまれていく。悲鳴をあげる者、悲鳴すらあげられない者……。
気がつけば津波は、町のほうまで来ていた。
「テル! あなただけは……逃げなさい!」
リリーはテルを押した。リリーも波にのまれた。
空はいつのまにか雨雲に覆われ、雨がぽつぽつと降ってきていた。そういえば、ここに来た時から少し雲行きがあやしかった。
「異常気象……」
そんなことを考えている暇はなかった。テルは泳いで、リリーを助けようとした。
が、リリーの腕をなんとか掴んだその時。
急に頭で何かが鳴り、うなり始めた。テルは溜めていた空気を一気に吐き出した。そしてテルの体は青白く光る。
「これは……!?」
テルは、もとからその場にいなかったように、静かに消えた。
(テル……?)
残されたリリーは、沈むことしか出来なかった。
(そうか……行ったのね、テルは……)
あとは津波の音と丘に登って怯える人の声、いつのまにかごうごうと降っている雨の音だけしか聞こえなかった。
○
「いつまで寝てるの? あんた」
「んー」
「ちょっと、生きてるでしょ?」
「んー……」
テルは目覚めた。背中にざらりとしたものを感じた。どうやらここは砂の上のようだ。
「よかった」
テルはその視界に入ったものを疑い、目をこすった。目の前に、ポケモンのゴンベがいたのだ。
「急に打ち上げられてびっくりしたわよ。さ、ギルドにつれてってあげるからそこで休みなさい」
「げーっ!」
「……何よ、急に変な声出して」
「待って待って! どうして君はポケモンなのに喋れるの!? そしておれは……!!」
ポケモンになっている。手、頭、しっぽ。どこをとってもヒコザルだ。
「おれ、人間のはずなのにっ!!」
「……人間? ここはポケモンだけが生きる世界よ。ポケモンと人間が共存する世界もあるなんて、絵本の中の話でしょ?」
「でも、確かにっ!」
テルはそこで喋るのを止めた。確かに何だ? テルは、自分が人間だったこと、自分の名前がテルであることしか覚えていなかった。
「っと……」
「ひとまず、あんたが人間ってことは信じてあげる。まだあんた傷だらけだから、早く行きましょう」
「へ? 行くってどこへ?」
「私たちの……ギルドに」
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