+ 第2話 ギルドと探検隊 +


 テルは、ゴンベに連れられて、『プクリンのギルド』についた。
 『ギルド』の外観はプクリンの顔そっくりだった。扉はかたく閉ざされている。
「それじゃ、そこに立って」
 ゴンベは、地面の、木が網目のように並べられている場所を指差して言った。
「えっと……これは?」
「いいから、立ってよ」
 ゴンベは、テルから見てあまり感じのよい少女ではなかった。
「わかったよ」
 テルはしぶしぶその場所に立った。
「ポケモン発見! ポケモン発見!」
「わっ!」
「しっ! 静かに」
 土の下から誰かの声が聞こえて、テルはぎょっとした。
「誰の足形? 誰の足形?」
「足形は……えーと……ヒコザルかな? ヒコザルかな?」
「なんだ? その「かな」ってのは!」
「だ、だってー、はじめて見る足形だし……」
 ゴンベは、土の下から聞こえるまぬけなやりとりを聞いてため息をついた。
「どいて。私が乗るわ」
 今度はテルのかわりにゴンベが立った。
「あ! この足形ならわかる! 足形はモモ! 足形はモモ!」
「……ってことは、さっきの『ヒコザルかもしれない奴』はモモの連れなのだな? よし、入れ!」
 ゆっくりと、プクリンのギルドの扉が開いた。
「さ、入るわよ!」
 ゴンベは先を走っていく。
「あ、ちょっと、待ってよー!」

「おかえり、モモ! その子は? 新しいお友達?」
「違います」
(そんなはっきりと否定しなくてもいいのにー)
 テルは、少しおもしろくない気持ちになった。
 プクリンは、ここのギルドの親方である。かなり愛想があって、隣で話しているゴンベとは全然違った。
「浜辺で倒れてたんで、そのままつれてきました」
「そうだったの? 大変だったね、しばらくここで休みなよ。ベル、お客さん用のお部屋に案内してあげて!」
「わかりました。では、こちらへ」
 ベルという名前のチリーンが、テルを部屋に案内した。
 ギルド内は、森の中のような場所で、テルはめずらしそうにあたりを見た。前はどのような場所に住んでいたのか、記憶はなかったのだが。
「ここで休んでおけば、すぐに治りますよ! ところでモモ、この子は倒れていたとき、どんな様子だったの?」
 さっきの変な会話をしていた見張り番も、おやかたのプクリンも、チリーンのベルも、ゴンベのことをモモと呼ぶ。どうやら、彼女の名前はモモらしい。
「浜辺で仰向けに倒れてた。そしてほとんどの記憶がなくなっていた」
「おれは自分が人間であること、名前がテルであることしか覚えてないんです」
「テル君というのですか」
「なんだか一年前の私を思い出しました」
 そう言ったのはモモだ。どうやらモモも、浜に打ち上げられたことがあるらしい。

「モーモー。そっちでの話がおわったら、おやかたさまがお呼びだからこっちに来ーい」
「うん、わかった」
 遠くのほうでポケモンの声がした。モモは「それじゃ」と言って、部屋をあとにした。
「あのー、ベルさん、モモさんがさっき「一年前の私を思い出しました」と言っていたのは……?」
「ああ、それ? モモも、あなたのように急に打ち上げられてきたのですよ。それでこのギルドにいる探検隊に発見されて、ここで今は下働きをしているのですよ」
「ふーん」
「あの子も大変だったよ。なんせ、自分の名前がモモであることと、誰かを探してここにやってきたってことしか覚えてないっていうんだからさ」
「そうなのですか……」
 ベルは、いつのまにかテルに対してタメ口を使っていた。だが、テルはあまり気にはしなかった。
「外見はのんびりやみたいなのに、外見と性格が全然違って、本当はゴンベじゃないんじゃないかって言われてるよ」
「確かに……」
「あら、ついしゃべりすぎちゃったね。ゆっくり休んでていいよ」
「ありがとうございます」

 ずいぶん眠った。一晩がすぎ、太陽はもう真上にある。
「……こんなに眠るとはね……」
「わっ! モモさん」
「モモでいいわ。それじゃあんた、ちょっとついてきて」
「え?」
 テルは、わけがわからないままモモに手をひかれた。
「テルっていうんだよね? よろしくね! それじゃあテル、ここに弟子入りしない?」
 広間に行くなり、おやかたにそう言われた。
「え?」
「モモと探検隊をやるってことさ。モモはずっと下働きだったし、探検隊やるにはいいと思うんだ」
「でもおれ、ポケモンになった理由とか、調べなくちゃならないんですけど」
「そんなの平気だよ。探検隊になったらいろんなところへいけるし、そうやって手がかりをさがしていけばいいんだよ♪」
 たしかにそうかもしれないと、テルは思った。
「それじゃ……」
「私は嫌」
 モモが言った。
「なんで出会ったばかりのうさんくさい奴と探検隊なんかやらなきゃならないのよ?」
「モモ、君がきたときも充分うさんくさかったよ!」
 常におやかたの隣にいるぺラップが言った。
「わかった。じゃあ、一度海岸に行ってみなよ。テルも何か思い出すかも」
「……わかりました」
 モモはしぶしぶ、テルが海岸に行くのについていった。

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