+ 第21話 +


 テルたちがレントラーから水のフロートを取り返した翌日の朝礼は、すぐには終わらなかった。
 朝礼のはじまりの時点で、ペラップもプクリンも暗い表情をしていたのだ。
 なかなか話し出さないペラップを見て、ドゴームはしびれを切らした。
「おい! どうしたんだよ」
「そうだな……私が話し始めないと、朝礼はずっと続く」
 ペラップは聴衆の顔を見渡して、話し始めた。
「また……<時の歯車>が盗まれた」
「なんだってー!?」
 メンバーは異口同音に叫んだ。その中で、テルの後ろで聞いていたヨノワールは、あくまで平静を保っていた。
「それに、今回は……」
 次はプクリンが言う。いつも元気なプクリンが、耳を力なく垂らしている。
「それって、ひょっとして」
「“霧の湖”の……ですか?」
 聴衆のうちの誰かの声に、プクリンは弱く頷いた。
「そんな……」
 重苦しい沈黙がその場を支配した。
 “霧の湖”に歯車があることは、ギルドメンバーだけの秘密であったはずだ。
 それから、各々が鋭い視線で他のメンバーを見る。モモがちらりとテルを見た時、テルは皆に向けて言った。
「待って! お互い不信になるのはよくないよ。おれは、誰かこの場のやつが秘密を漏らしたとか、思ってねえからな!」
 そしてテルは視線をモモに移す。モモは俯いて、ごめん、と言った。
「私だって、テルや他の皆を信じてないわけじゃない、でも」
「モモ、わかるよ。テルも、思いっきり言ってくれて、ありがとな」
「ああ……」
「ショックねぇ。盗んだやつを、今すぐこらしめてやりたいわ!」
 キマワリがそう言った時、ずっと黙っていたヨノワールが前に出た。
「あ、あの、霧の湖の歯車というのは……?」
「ごめんね、ヨノワールさん。霧の湖での冒険は失敗したって言ったのは嘘だったの。あの場所に歯車があったんだよ。友達なのに黙っててごめんね」
「いえ。事情が事情です、部外者である私には話さなくて当然のことでしょう。それに、霧の湖は<時の歯車>があるのではないかと、もともと私が目星をつけていた場所の一つですから」
「えっ、そうなんですか?」
 テルが、すぐそこに来たヨノワールを見上げて言った。ヨノワールは頷く。
「他に、どこにあるかとか、わかりますか?」
「あくまでも憶測ですが……」

 ヨノワールの話によれば、彼は今までに、四つの土地に目星をつけたということだった。
 一つ目が、さきの“熱水の洞窟”。二つ目は、東に広がる謎多き森。三つ目は、その名の通り水晶が輝く“水晶の洞窟”。そして四つ目は、ギルドからずっと北に行ったところにある“北の砂漠”。
 いずれも、プクリンのギルドにとっては未踏の地であった。
「大体、このあたりですかね」
「なるほど。では、まずこのあたりを調べよう。そして<歯車>を見つけたら、にっくき歯車泥棒から守る!」
 ペラップがそう言うが、誰も歯車泥棒の顔を知らなかった。このままでは、歯車を守ろうにも守れない。
 その時だった。
「号外、号外! 歯車泥棒のモンタージュができたよー!」
 ギルドの外から、カクレオン商店兄弟の弟の声がした。ドゴームはすぐにギルドの扉を開ける。
「カクレオンの弟! それはどういうことだ」
「おれも一応、カクレオンなんだけどなぁ……」
 そう言いながらも、カクレオンはペラップにポスターを渡した。
 モンタージュは、森トカゲポケモン、ジュプトルであった。
「皆、この顔だ! この世界を破滅に導く悪魔だよ!」
 テルもモモも、ポスターを凝視した。そのポケモンは全体的に緑色で、鋭い目をしている。
「“濃霧の森”のポケモンが、一瞬この顔を見たということでな」
「いい、皆見た? よし、それじゃあ、さっきの土地を調査するメンバーを振り分けよう!」

 ペラップによって、“東の森”には、ドゴームとヘイガニ。“水晶の洞窟”には、キマワリとダグトリオとビッパ。そして、“北の砂漠”には、テルとモモ、といったように調査メンバーが振り分けられた。
「おれたちは“北の砂漠”……よし、準備を整えたら、すぐにでも行こうぜ!」

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